このブログでは、MASTAにおけるギヤの歯のピッチ誤差の影響を調査します。

ギヤ製造品質の直接的な結果であるピッチ誤差 (PE) は、サイドバンドを発生させることで車両のNVHに明確な影響を与える可能性があります。

ピッチ誤差はギヤの歯面が隣の歯と相対的にずれていることで、ここでは赤線で示します。

ピッチ誤差はギヤの歯面が隣の歯と相対的にずれていることで、ここでは赤線で示します。

サイドバンドは、高調波信号が周期的に変調されるときに発生し、主要次数の周囲に間隔が狭い複数の次数(サイドバンド)を作成します。

サイドバンドは周波数が主要次数と非常に似ているため、離散周波数音として知覚されず、主要次数の変調として聴こえます。

変調効果をデモンストレーションするために、100rpm から 9000rpm の間で回転を上げた人工信号を作成しました。

最初の信号には26次のみが含まれます。

2番目の信号には26次と、主要次数の半分の振幅を持つ25次および27次のサイドバンドが含まれています。

お聴きいただいて分かるように、サイドバンドはノイズに大きな違いをもたらす可能性があるため、NVHのトラブルシューティングにおいては重要な考慮事項です。

試験データにおけるサイドバンド問題の例を以下に示します。このウォーターフォールプロットの例では、3kHz付近にサイドバンドの領域が見られます。

マイクロホンデータのサイドバンドの例

MASTAにおけるサイドバンド

ギヤ励起の影響をシミュレートするために、調和解析を使用します。これは、振動に対するシステムの応答を周波数領域で解くものです。

MASTA の Harmonic Response モードでは、さまざまな励起オプションが用意されており、目的の結果に対して適切な忠実度を選択することができます。

ギヤの PE によるサイドバンドをシミュレートするには、MASTA の Advanced System Deflection (ASD) モードを実行して調和解析用の励起を生成します。

これは異なるタイムステップで一連の準静的解析を実行します。

ASD は完全な動的解析を実行するよりも高速で、ギヤのピッチ誤差の影響を捉えることができます。

例として、2段EVモデルの1段目のギヤセットでサイドバンドをシミュレートし、このギヤセットの伝達誤差 (TE) を調和解析の励起として使用します。

電動ドライブトレインの例

PE がピニオンとホイール両方に含まれている場合に何が起こるかを見てみましょう。

この変調が TE に与える影響を完全に捉えるために、ピニオンの全ての歯がホイールの全ての歯を通過する励起データを作成するために、以下のかみあい歯数分解析します。

26 (ピニオン歯数) x 59 (ホイール歯数) = 1534

これにより、信号の全サイクルが生成されます。信号は振動全体を経て、開始位置に戻ります。

Tip:

不完全な周期をフーリエ変換した場合、その結果は存在する高調波の振幅全体を捉えることができず、スプリアス高調波が発生する可能性があります。これはスペクトル漏れとして知られています。

信号の4フルサイクル、スペクトル漏れなし

信号が4番目のサイクル完了前に終了し、スペクトル漏れが発生

Tip:

歯の通過に十分なポイントが含まれていない場合、フーリエ変換は歯の通過次数を捉えるのに十分な周波数に到達できません。これは、以下の周期ごとの結果で分かります。オレンジ色の信号には4サイクルの振動を捉えるのに十分なポイントを含んでおらず、2つの振動しか含んでいないように見えます。

サンプリング数不足の信号の例

歯の通過周波数を確認するのに十分な分解能を得るために、歯の通過ごとに10ステップを使用します。

ピッチ誤差を含めるため、ギヤの品質は ISO 1328-1:1995 で指定されている ISO等級7に変更します。

このISO等級では、PEの振幅はピニオンで18.5µm、ホイールで24.5µmです。

ホイール左歯面のPEの例を以下に示します。

ピッチ誤差の例

PE が無ければ、TE では Input Shaft を基準とした歯の通過次数 26 のみが表示されると予想され、MASTAではそれが表示されます。

製造誤差の無い 1st Gear Set の TE

対照的に、ピニオンとホイールの両方に PE を追加すると、多くのことなる振動周波数がある、より励起の強い TE が得られます。

1周期に59回発生する振動は、ピニオンの PE によるもので、26回発生する振動はホイールの PE によるものです。

どちらの変調もサイドバンドを発生させます。ピニオンの PE はかみ合い次数の±1次でサイドバンドを発生させますが、ホイールは±26/59=0.441次でサイドバンドを発生させます。

両方のギヤのPEを含む1st Gear Set の TE 

両方のギヤにPEを与えた場合のTEの次数

しかし、我々の信号にはこれらのサイドバンド以外にも多くのサイドバンドが見られます。

これらのサイドバンドは、28=26(かみ合い次数)+2×1(ピニオンサイドバンド)のような、ピニオンとホイールの倍数によるサイドバンドと、サイドバンドがサイドバンドを変調することによって形成されるサブサイドバンドの組み合わせとして識別できます。

デモンストレーションのためにピニオンのサイドバンドを赤、ホイールのサイドバンドを緑、サブサイドバンドを紫で表示しました。

サブサイドバンドとはどういう意味でしょうか?

27.44次を例にとると、これはホイールサイドバンド0.44次によるピニオンサイドバンド27の変調です。

ギヤが回転するときに接触する歯の PE がどうなっているかを考えることで、この現象がどのように発生するかを想像できます。

まず、ピニオンとホイールの両方で PE が最大の歯が接触している状態から始めます。

次にピニオンを1回転させると、ピニオンの PE が最大の歯が再び接触します。

しかし、ホイールはまだ0.44回転しかしていないので、PE が最大の歯には戻っておらず、同じ TE は期待できません。

ピニオンとホイールの PE が最大になる位置に戻るには、ホイールの全ての歯がピニオンの全ての歯を通過する必要があります。

ギヤボックスケーシングの音響パワー:製造誤差が含まれていない場合

ギヤボックスケーシングの音響パワー:両方のギヤに PE が含まれている場合

先ほど話した TE の結果を調和解析のための励起として使用すると、ギヤ PE のような製造誤差が、音響パワーなどのNVH性能パラメータにどのような影響を与えるかを確認できます。

上の図は、PE を適用した場合と適用しなかった場合の音響パワーを示しています。

PE を与えた場合、先ほどの試験データで見られたように、主要次数の周りにサイドバンドがどのように表れているかが分かります。

これらの結果は、一例を示したものです。NVHと試験データの相関については、今後もSMTのブログをチェックしてください。

ご覧いただきありがとうございます

このブログ記事で、MASTAでギヤ PE によるサイドバンドをシミュレートする方法と、サイドバンドが製造誤差にどのように関係するかについて役立つ情報をお伝え出来たと思います。

MASTAのNVH詳細については、過去のウェビナーをご覧ください。

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